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コラム

2022年10月17日病害・微生物

歴史に残る植物の病気2

研究開発部イチゴ担当の本間です。今回は植物の病気の歴史について紹介します。いったい何時から人類は植物の病気を認識するようになったのでしょうか?何時から植物の病気は人類の前に姿を現していたのでしょうか?

突然ですが貴方は聖書を読んだことがありますか?旧約聖書にこんな文が載っています。

創世記41章2-24節「穂ひとつの茎に出で来る。その後にまたいじけ萎びて」
列王記上8章37節「国に飢饉あるかもしくは疫病、枯死、朽腐、蝥賊、稲虫あるか」
亜麼士(アモス)書4章9節「枯死殻と朽腐穂とをもて汝らを撃なやませり。また汝らの衆多の園と葡萄園と無花果樹とオリーブとはイナゴこれを食へり」

ここには萎凋病や黒穂病、虫害などが記載されています。ただ当時は病気という概念が無く、天罰として記載されています(図1)。

植物の虫害も古くから記録があり、最古の記録は紀元前17世紀-紀元前1046年の古代中国殷王朝まで遡ります。バッタの大発生による蝗災が記されています(図2 彭邦炯 1983)。

古代ギリシャや古代ローマでも植物の病気の記録があります。当時は病害防除を病気の神に祈ったらしいです(当然ですが全く効果はありませんでした)。キリスト教という一神教がヨーロッパに入る前の時代ですから色々な神がいますね。困った時の神頼みは古今東西共通でしょうか?

古代ギリシャでは植物の病気を研究する学者が次々出てきます(図3 Plant Bacteriology. Clarence IK)。植物の病気を記述した最初の人物は古代ギリシャのクライムデスと言われています。彼はイチジク、ブドウ、オリーブの病気を研究していたそうです。またアリストテレスの弟子のテオフラスタスは天候と作物の病気の発生のしやすさを研究したとされています。

1200年に寄生植物ヤドリギが初めて報告されました(図4 Mathiasen et al 2008)。病原菌ではなく植物が植物に寄生することを初めて報告した例です。

1637年には種子を消毒する技術が開発されました。イギリスのブリストル海岸で貨物船が難破し、船に積まれていたコムギ種子が海水に浸かってしまいました。しかたがないのでその種子を播いたら、なんと黒穂病がほとんど発生しませんでした(向秀夫 1986)。この発見がきっかけとなり、海洋浸漬による種子消毒法が開発され、硫酸銅水溶液による消毒法が登場するまでのおよそ107年にわたって利用されていました。

中世の欧州ではムギ類の黒さび病が多発していました。当時の農民たちは庭木のセイヨウメギ(図5)が原因だと信じていましたが、科学者たちはバカにしていました。

しかし世論に押される形で、1660年フランスでコムギ黒さび病防除のためにセイヨウメギの刈取り除去が法令で可決されました(Tushima et al 2022)。これは世界初の植物病害防除の法令です。民衆のパワーはすごいですね。さすが100年後にフランス革命を起こした人たちの先祖です。ちなみに1865年にセイヨウメギがコムギ黒さび病菌の中間宿主だと科学的に証明されました(De Bary 1865; 1866)。これはコムギからセイヨウメギへの宿主交代という現象が初めて報告された例です。

1743年イギリスの司祭ニーダムによって線虫がコムギ穀粒から発見されました(二井一禎 農業新時代 第1号38-51)。当時は病原体なのか不明でしたが、19世紀後半に病原体と認識されるようになりました。

1858年ドイツのキューンが世界で初めて植物病理学の本(Kühn著)を出版しました(Die Krankheiten Der Kulturgewachse. Kuhn JG)。

19世紀以降微生物が植物病の原因であることが次々と報告されました。1861年菌類が、アイルランドの大飢饉を引き起こしたジャガイモ疫病の原因だと証明されました(De Bary 1861)。1878年細菌がナシ火傷病の原因だと報告されました(Baker 1971)。1935年ウイルスが初めて人類の前にその姿を現しました(Stanley 1935)。タバコに感染するウイルスです。1967年植物の形を変える病原細菌ファイトプラズマが初めて発見されました(土居ら 1967)。1971年ウイルスより小さい病原体、ウイロイドが初めて発見されました(Diener 1971)。

私は受験生時代歴史が苦手科目でした。しかし興味ある分野と絡めて調べると様々な発見があり、面白く感じました。人と植物の病気の歴史はこれからも続くことでしょう。次回は植物に病気を引き起こすフユカイナな仲間たちを紹介します。

 

<参考資料>
 Baker K. (1971) Hilgardia 40 (18): 603-633.
 Barnes G, et al. (2020) Plant Pathol. 69 (7): 1193-1202.
 De Bary A. (1865) Ber. Akad. Wiss. Berlin. 1865:15-49.
 De Bary A. (1866) Ber. Akad. Wiss. Berlin. 1866: 205-215.
 Diener TO. (1971) Virology 45 (2): 411-428.
 Doi Y, et al. (1967) Ann. Phytopathol. Soc. 33 (4): 259–266.
 Mathiasen RL, et al. (2008) Plant Dis. 92 (7): 988-1006.
 Stanley WM. (1935) Science 81 (2113): 644-645.
 Tsushima A, et al. (2022) Plant Pathol. 71 (4): 890-900.
 De Bary A. (1861) Förstner’sche buchhandlung
 Julius Gotthelf Kuhn. (1858) Die Krankheiten Der Kulturgewachse, Ihre Ursachen Und Ihre Verhutung
 Kado CI. (2010) Plant Bacteriology
 向秀夫(1986)植物防疫 40 (9): 1-8.
 彭邦炯(1983)农业考古 2: 309-314.

 

 

本間洋平

著者プロフィール

名前
本間洋平
出身地
東京都渋谷区
専門分野
植物分子細胞生物学 植物生理学 生物化学工学 物理化学
趣味
スポーツジム、サイクリング
好きなもの
和風洋食、中華

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