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コラム

2023年08月06日品種特性

トマト黄化葉巻病耐病性品種での被害拡大!! 〜園研のミニトマト品種 ‘かむり’ の可能性〜

こんにちは。環境科の丹羽です。「猛暑日」や「災害級の暑さ」という言葉が毎日のようにニュースで取り上げられておりますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか?

さて、今回は、ちょうど1年前に取り上げた「トマト黄化葉巻病」(https://www.enken.jp/column/column1/6951)に関する話題提供です。黄化葉巻病はタバココナジラミによって媒介されるトマト黄化葉巻ウイルス(Tomato yellow leaf curl virus, TYLCV)によって引き起こされる植物ウイルス病です。国内にはイスラエル系統およびマイルド系統の2系統のTYLCVが存在しています。発病すると葉が黄化して株全体が萎縮し生育が著しく停滞、さらに開花しても結実しづらく、収量が激減します。

この病気の防除方法の一つとして、耐病性品種の利用が積極的に行われており、多くのトマト・ミニトマトの耐病性品種が販売されています。しかしながら、2〜3年ほど前から、この耐病性品種での被害が重症化して問題となっている生産地域が増加しています。


耐病性品種での発病メカニズム
では、まずは、現在販売されている耐病性品種の耐病性のしくみについて簡単にお話しします。2023年8月の時点で、トマトが持つTYLCVの抵抗性遺伝子は、Ty-1Ty-6の6種類が発見されています(Yan et al., 2021)。国内で販売されている耐病性品種の多くは、これらのうちのTy-1という遺伝子を持つものが多く(Koeda and Kitawaki, 2023)、その他Ty-2およびTy-3を持つ品種もあります。これらの遺伝子を保持することでTYLCVのDNAの複製が抑制されるため(つまりTYLCVの植物体内での増殖が抑制されるため)、発病が抑えられます。

しかしながら、こうした耐病性のしくみを持つ品種でも、収量に影響するほどの被害が出てしまう・・・。いったい、耐病性品種で何が起きているのでしょうか?

耐病性品種でも病徴が顕著に現れ、生育停滞や収量の減少が起きてしまうということは、耐病性品種の持つTYLCVの増殖抑制の機能が弱まるもしくは機能しなくなっていることが考えられます。下の写真は、耐病性品種および感受性品種の黄化葉巻病の病徴を示しています。耐病性品種では、感受性品種のような激しい黄化と葉巻は認められませんが、軽い黄化と葉巻が認められ、今後着果負担などがかかるとより症状が顕著になり、生育が停滞して収量にも影響することが予想されます。

写真1.耐病性の異なる品種間における黄化葉巻症状の比較

耐病性品種でのTYLCVの増殖抑制機能の低下について、現在様々な角度から研究が行われており、最近いくつかの要因が明らかとなってきました。まず、今年の6月に、夏季のような高温環境下では、TYLCVのイスラエル系統に対するTy-1の抵抗性が崩壊することが報告されました(Koeda and Kitawaki, 2023)。この論文では昼温35度、夜温20度での試験を行っていますが、実際の夏場のトマト・ミニトマトハウスでは気温はさらに高いことが予想され、高温による抵抗性の崩壊が耐病性品種の被害拡大の1つの原因であると考えられます。さらに、黄化病の原因ウイルスであるTomato chlorosis virus(ToCV)との複合感染によりTy-1を持つ耐病性品種で黄化葉巻病の症状が悪化することも示唆されています(Fortes et al., 2023)。国内のトマト・ミニトマト産地の耐病性品種で黄化葉巻病の症状のある株の葉を園研で調べたところ、一部からはTYLCVとともにToCVも検出されおり、耐病性品種の発病程度に大きく影響している可能性も考えられます。今後、このような研究がより進むことで、耐病性品種での被害拡大のより詳細なメカニズム解明に繋がることが期待されます。


園研のミニトマト
かむりの可能性
一方で、メカニズムの解明と共に重要なことは、より耐病性を強化したトマト・ミニトマト品種の開発です。園研のミニトマト‘かむり’ (https://www.enken.jp/seeds/distribution/tomato/kamuri)は、前述のような耐病性品種で被害が甚大な地域においても安定した収量を上げているとの報告が上がってきています(写真2)。‘かむり’は国内で販売されている多くの耐病性品種と同様の耐病性因子を保持することから、なぜ‘かむり’で黄化葉巻病の症状が出にくいのかについては今のところよくわかっていません。前述のような高温下における抵抗性の崩壊が‘かむり’では起きにくいのか、はたまたToCVのような複合感染したウイルスに対する抵抗性を‘かむり’が持っているのか?現在、我々は、‘かむり’の黄化葉巻病耐病性の評価を詳細に行うとともに、その要因についても調査を進めているところです。

写真2.黄化葉巻病発生圃場で栽培されていた‘かむり’の様子

(参考文献) 
 Yan et al. : Microorganisms (2021). doi.org/10.3390/microorganisms9040740
 Koeda and Kitawaki : Phytopathology (2023). doi.org/10.1094/PHYTO-04-23-0119-R
 
Fortes et al. : Phytopathology (2023). doi.org/10.1094/PHYTO-09-22-0334-R

丹羽理恵子

著者プロフィール

名前
丹羽理恵子
出身地
愛知県春日井市
専門分野
土壌微生物学、植物病理学
趣味
サイクリング、海外ドラマを観ること、釣り、ミニトマト栽培